スペシャリスト Specialist 専門家
投稿日時 2006-11-29 1:46:57 | トピック: コラム
| これはどこかのテレビ局で放映された話です。私は見なかったのですが、2〜3の方々が話して下さいました。それはお米作りの話です。
今年は夏が冷夏で雨が多くお米は大凶作です。青森県等は全国でも稲作が一番悪かった所です。ところがその青森県で周りじゅうの田んぼは青立ちでお米が実っていないのに、ある農家で作られた田んぼだけは、黄金色の稲が重い穂をたれて見事なまでに実っているのです。
テレビ局の人が見事に実った田んぼを作られた方に「なぜこんなに違うのですか?」と問うと、「私はお米作りの職人です。お米を作る専門家ですから天候が不順だろうが環境が変わろうが、お米を作る事ができてあたり前なんです」 「でも青立ちになってしまっている周りの田んぼの人はどうしてあんなになってしまったのでしょう?」と尋ねると、「あの人達は作業人です。何の工夫もしないで、ただ毎年毎年同じように作業しているだけだから出来ないのです」 そこで作業人と言われた人に聞いてみると「私のところは兼業農家です。とてもあの方のやっているような面倒な事は出来ません」と言います。
もう一度、よく出来たかたの方に、「どうやったのですか?毎日仕事が大変で疲れるのではないですか?」と質問しました。「まず初めに苗を植える田んぼの土の手入れを入念にします。化学肥料は一切使いません。そして苗を植えてからも雑草より苗が強くなるようにして除草剤も使いません。外気の温度が低い時には温かい水を入れ、暑い時には冷たい水を入れるのです。それを一日24時間のうち何回かやります。そして有機肥料も稲の成育に合わせて上手にやるのです。疲れる?私はほんとに毎日稲の成長を楽しみに楽しくやっていますから全然疲れませんよ」という事でした。
私は考え込んでしまいました。お米作りだって教育だって同じではないでしょうか。どんな条件の悪い生徒でも、立派にピアノを弾けるようにしてあげられるのが本物の教育者です。クラスの中の数人だけが上手でなく、どの子もどんな子も育てられて初めて教育のスペシャリストといえるのではないでしょうか。
ちょうどお米と同じように“陽が当たらなかった”“冷たい雨や風が多かった”等々と環境のせいにしないで、どんな性格でもどんな家庭環境でもピアノを勉強したいといって習いにきた子供のそれぞれの条件に合わせて、愛情をそそぎ育てなければいけないのです。
それでもお米作りは一年ではっきり分かりやすく結果が出ます。また考え直して良い作り方を見習う事が出来ます。教育はこれに比べるとずっと難しいように思えます。それは結果が出るのに10年かかるからです。そのためについつい、いい加減に教育して子供達を実のない青立ちのような状態にしてしまっています。お米作りの人が一日に何回も水の温度を変えたように、単純ないつも同じ基本的なテクニックを忍耐強く手を抜かずに努力して教える事が大切です。いつも良い仕事は、ほんの少しの事に気を配るか、配らないかで決まってしまいます。
教育は10年かかって大変なのですが、成功した時にはそれだけに喜びが大きいのです。どの分野でもスペシャリストが出てこないと良い世界にはならないような気がします。先生もお母さんも、ただ何も工夫せずにマニュアル通りに動いてしまう作業人にならないよう、子供を育てそこなわないよう気をつけましょう。
私達は子供を育てるスペシャリストになりたいものです。【K】(1993.11.18.掲載)
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