マナー(1) 正しい姿勢
投稿日時 2006-2-15 23:45:50 | トピック: コラム
| 今、日本の家庭の中のマナー(お行儀)の躾はどうなっているのでしょう。 昭和の初めの頃の日本の家屋は、立派なお屋敷でも洋間は一間だけであとは日本間というのがごく普通の家だったのではないでしょうか。その他の家はほとんど畳の部屋だけでした。そしてその当時の母親の服装は着物が多かったように思います。
私の母親(明治32年生まれ)もいつも着物で帯をきちんとしめ子供の前では正座していました。そして私達も学校から帰ると必ず畳に手をついて「ただいま帰りました」とあいさつしました。それと何か失敗してあやまる時は必ず同じように正座し、手をついて頭をさげ「ごめんなさい」とあやまらせられました。食事の時はお行儀よく座り、食べ方もかなり色々とロうるさく注意されたのを覚えています。
生活の中の礼儀とは家族が一緒に暮らす上の基本のルールであって、それを必ず守る事が、秩序を守って人間が生きていく上で大切な事なのです。そしてそれを毎日繰り返し言われると、いつの間にか子供の身につきその立ち居振る舞いが美しいので、躾という字が出来たのではないでしょうか。畳の日本家屋が子供達に背筋を伸ばし、きちんとしなければいけない場を沢山提供してくれていたように思えます。
さて、昭和の初めから60年以上たち、今の日本人の生活環境はすっかり変わってしまいました。畳は隅の方に押しやられて、ほとんどが椅子とテーブルの生活です。椅子とテーブルは、人間の体の動きの中でほんとうに合理的に出来たよい道具だと思います。それと服装は当然、着物から洋服に移りました。洋服も働くためには機能的で便利です。その他いろいろ便利な電気器具等で生活水準は50年前とは比べられないほど進歩しました。ただ、この変化の中で子供達の躾はどうなったのでしょう。
日本には、テーブルと椅子を生活の中で使う伝統がありません。ただ便利さだけで使っています。何もテーブルのマナーを知らない親達は、子供にそれを使って教える事が出来るのでしょうか。
だいぶ前ですがイギリスに行き、そこのある町の大学の音楽部長さんのお宅に泊めていただいた事がありました。朝の食事の時、その家の14〜15才の男の子が私の座った椅子の少し後にきちんと立っていて、すべて手伝ってくれるのです。お客様が泊まったので丁度よい接待の練習だったのでしょう。それはそれは王侯貴族になった気分でとても素晴らしい朝ご飯でした。
もう一つ、これはアメリカですが夕食の時6才の男の子に運んでも大丈夫なお皿を運ばせ、お客様の後で右側から出すのか左側から出すのか忘れてしまった男の子が迷っていると、前に座っている母親が指でこっちこっちと左側を教えているのを見た事があります。あんなに小さい時から手伝わせ、それも「いい子ちゃん」という感じでなく、本当に大人がお給仕しているようにきちんとやらせているのを見て、どこの国でもしっかりした家庭では小さい時に、繰り返し繰り返し同じ事を教え身につけさせているのだと感心しました。
一番はじめに言ったように今の日本の子供達は大丈夫でしょうか? 生活の中で厳しく正しい躾を身につける緊張した良い時間を持っているでしょうか。テーブルと椅子の民族は食事の時には、きちんと背筋を伸ばしてお行儀よい姿勢をとり、食べ方の良いマナーを学んで身につけています。良い姿勢は生活の中のいろいろな場で学べるチャンスが沢山あります。ただ日本人は生活様式が変わったために、それを失ってしまったのではないでしょうか。
ピアノで音楽的な音を鳴らすにも、自然なよい姿勢がまず最初に大切です。生きていくのに体を最も効率よく健康に維持するには自然な良い姿勢が必要です。充分に良い空気を胸一杯に吸い込むには、どうやら良いマナーが必要なのです。ピアノを習っている子供達は良い正しい姿勢の練習をする機会に恵まれています。先生もお母さんも、ピアノの勉強を通して人間としての勉強を毎日根気よく手伝ってあげましょう。【K】(1993.2.19.掲載)
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