“やる気” と “匙かげん”
投稿日時 2008-2-27 3:30:28 | トピック: コラム
| 私は長いこと子ども達にピアノを教えていて、レッスンの時「上手だね!」「上手だね!」と沢山誉めるのがあまり好きではありません。なぜ?というと誉めると必ず次の週には下手になって来るからです。
それでも大きな視野で考えると人間はやはり一生懸命やった事を誉められて嬉しくなり、もっと『よーし、頑張ろう!』とやる気を起こすのだというのもよく知っていますし、誉める事の大切さもよく分かっています。
さて誉めると全員ではないのですが平均して必ず下手になってしまうのは、『上手になった』と誉められると、親も子も『出来た! 完成した!』という気になってホッとするのでしょう。そしてその曲からやる気が抜け他の曲を熱心に練習したりするのです。今迄は出来ない難しい所をしっかり気を入れて一生懸命やったのが、『出来た!』という思いで一度に風船の空気が抜けるように気持ちが抜けるのです。
昔の武士の諺に『勝って兜の緒をしめよ』というのがあります。戦って勝ったあと思い上がって油断すると、次は敵に敗れてしまうということです。勝ったらいっそう気を引き締めて次の事態に備えなさいという厳しい教訓です。ピアノのお稽古だけでなく物事は何でも同じなんですね。
上手になったらいっそう気を引き締めないといけないのですが、誰でも先生に『上手』って誉められたら、気がゆるんでしまうのは仕方がない事でしょう。
ずっと昔、私の教室に入っていらした鈴木先生が、とてもよく勉強する一人の生徒に「Sちゃん、上手になったらおしまいですよ」「えっ?」「だって上手の上はないでしょう。何事も下手で一生懸命やる方がいいんだよ」と楽しそうに言っていらっしゃったのを今でもよく覚えています。
「まだまだ上手には弾けていませんよ。こことここをしっかり練習しないと駄目」と厳しく言うと、次の週必ず良い成果が上がってきます。
それでもやっぱり厳しくばかりしていると子ども達は“ やる気”をなくしてしまいます。厳しい中で上手に少しづつ誉めてゆかないといけません。子ども達は(大人でも)何かをやるとき他人に言われたり無理強いされたりして、いやいややると成果が上がらないのですが、自分自身でやる気になった時『この子が!!!』と驚くほど力を発揮するものです。まわりの人がどんなに張り切っても、子どもに無理にそれをやらせる事は出来ません。それをやるのはあくまでも本人です。
しかし、そのやる気を子ども達に起こさせるには、まわりの大人が誉めたり叱ったり色々な刺激を与えて、“ やる気”のきっかけを作ってあげる必要があります。それには厳しさも誉める事もその子に合った丁度よい量を与えなければいけないのです。
昔から言われる“匙かげん”の上手下手が人を指導する上手下手になるのだと思います。どんな良い薬でも与え過ぎれば毒になります。叱り過ぎも誉め過ぎも駄目という訳です。
どうぞ先生は勿論、毎日の練習で子供たちと助け合って勉強するお母さま方、相手が“やる気”を起こすよう工夫しながら厳しく楽しく練習しましょう。 【K】(1995.2.16.掲載)
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