“気”
投稿日時 2009-1-22 2:57:46 | トピック: コラム
| 皆さん知っていますか? テレビって真夜中に時々とても良いドキュメンタリーをやるのです。どうして真夜中でなくもっと皆が見られる時間にやらないんだろうと思うほど良い話なのです。
又この間、真夜中にテレビをつけてみました。そうしたらある一人の筋萎縮症の青年の事をやっていました。名字は忘れましたが『ケンちゃん』です。
生まれた赤ちゃんの時も2〜3才の時もとても元気のよい子供だったそうです。それが5才の時に異常が見つかり病院で筋萎縮症と診断されます。体の筋肉が徐々に動かなくなる病気で治療の方法がないので、彼も20才迄しか生きられないだろうと病院で言われました。
ところが彼は今30才です。勿論、病気はどんどん進行していて体は全然動けません。人並みに出来る事は喋る事だけです。寝る時も瞼にテープを張らなければいけないし、食べる時も下あごが動かなくなってきているので、金属の棒を車椅子につけてそこにあごをのせ、食べたり喋ったりしている状態です。
体のどこも動けませんから移動は車椅子と、その他の所はお母さんが背負っています。お母さんも一日に4回インシュリンを打たなければいけない病気持ちの身です。それなのに、24時間息子に付き添って面倒をみています。
ケンちゃんが20才になった時、お父さんに「20才といったら大人だ。自分の食いぶちは自分で稼げ!」と言われたのがきっかけで、二畳半の小さいお店に「ケンちゃんのマンガ塾」を開き、近所の子供たち相手に商売を始めたのが最初です。そして10年間の間にだんだん大きい『K-Books』という本屋さんを始め、今は確か三店舗か四店舗を経営しているのです。
そしてそれも東京の池袋のサンシャインビルの中に一つ、吉祥寺駅の近くに一つ、という風に本当に立派な本屋さんなのです。従業員も何十人にもなり社員旅行で温泉に行ったりもしています。その総指揮をとっているのが、筋萎縮症で何も出来ないはずの『ケンちゃん』なのです。
彼は決してじっとしていません。どこの店へも自分の目で見なければ気がすまない時は必ず出掛けます。(お母さんが大変!)そしてお店で指揮をとっている時の厳しい事、一寸でも気を抜いて働いていると、彼の罵声がとんできます。かなりなんてものではなくとても厳しいのです。朝から晩まで世話になっているお母さんも店で働いているのですが『ケンちゃん』に怒鳴られ通しです。
でもあれだけ重症の病人が気合いを入れて怒ると説得力があります。誰も反発する事は出来ない雰囲気です。だからそのお母さんを始め、店長さんもその他の社員も叱られながら真剣に働いています。
そして彼は言うのです。「人間誰でも自分は精一杯やっている、精一杯働いていると思い込んでいる。それが間違いなんだ・・・精一杯なんかやってないんだ。自分だってお母さんと二人で一人前かな? いやいやまだ一人前ではない。もっとしっかりやらなければいけない・・・この次は家賃100万の新しい店を作るのだ・・・」
そして「私が皆に厳しくして急ぐのは時間がないからなんです。私がいなくなった時、今一生懸命働いている皆が店を持てるようにしてあげたい」と言っています。
何の分野でも素晴しい仕事をしている人ほど、いつも「自分は何も出来ない」と、とても謙虚に考えています。そして毎日初心にかえって一から考え、集中し一生懸命その仕事をしています。それですから、どんどん素晴しい仕事が出来るようになります。
その反対に、自分はよくやっていて偉いと思うような人程、それは勝手な思い込みで事実は違うのだという事に気付きません。『ケンちゃん』はこんな重症の病気の身でありながらそれが良く分かっています。 五体満足な人間だって10年間にあれだけの仕事が出来るでしょうか? 私など自分に置き換えて考えてみると恥ずかしい限りです。
このテレビを見て、人間って素晴らしいものなのだと思いました。あれだけひどい病気で体が使えないのですから何もしなくたってそれが当たり前なのに、『やる気』があればあれだけの事が出来てしまうのです。
それに、20才迄のはずだった命までが10年も延びているではありませんか。人間の『気』ってすごいものなのですね。こういうものを偶然見せられてしまった後、私は考えてしまいます。神様が『お前、怠けてるよ』って注意して下さってるんだな・・・って。
みんなも、もうこれで精一杯と思わないで『よしやるぞ』と思い気合いを入れて頑張れば、もっともっと可能性があるのが人間なのですから、『やる気』を大切にして今年も精一杯、一生懸命努力して生きましょう! 【K】(1996.1.25.掲載)
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