才能教育研究会ピアノ科




コラム : 天才と努力
投稿者: river 投稿日時: 2007-11-30 10:52:01 (1245 ヒット)


 私が中学生だった頃の昔の話です。

 もう亡くなりましたが私の母は明治32年生まれで、その当時庶民の学歴は小学校を卒業すればそれで終わりが普通でした。そして女性は尚の事その上の学校には行かなかった時に、女学校とまたその上の津田英学塾へ入学して英語を勉強した人です。

どういう訳か英語がとても好きだったようです。そして私が学校の英語の宿題などをやる時、辞書を引くのが面倒なので母に分からない単語を聞くと即座に返事をしてくれました。

 私は子供心に考えました。どうして母はあんなに頭がよくて私はその母の子供なのに頭が悪いのだろう。一回単語の訳を聞いて覚えようと思っても私はすぐ忘れてしまう。神様は不公平だ! どうして母だけ天才的に頭が良いのだろう。だって、いつどんな難しい単語を見せてもすぐ答える事が出来るんだから・・・そしてずっと私は神様をうらんでいました。

 ところがある時、多分母の機嫌が悪かった時にうっかり英語を教えてもらいに行ってしまったのです。そして大きい声で一括されたのです。「何です!怠け者。辞書を自分で引きなさい! 文章を読んで分からない字があったら、思い出そうとしないで字引を引くんです。同じ単語を何回でも引くのです。そうすると、30〜50回目には辞書に手をかけると思い出すのです!」と言われました。

その時私の頭にひらめいたものは!! 今迄母は一回で何でも覚えてる頭の良い天才と思い込んでいたのに、そうではないのだ。それだけの努力をして覚えているのだ! 分った、私の頭は悪いんじゃない、私は努力をしていないだけなのだ! 


 そういえば母の机の上にいつも置いてある英語の辞書は、かどがすりへり表紙もいたんでいてボロボロでした。私の辞書は今でも持っていますがとてもきれいです。頭の良い悪いの手前に努力をしなければいけないのだという事が、その時初めて分かりました。

 私は今大人になり年をとって色々の分野で活躍している人を見ると、その仕事に向いている素質を持っていてその上にものすごい努力を重ねた人が成功していると思います。世界的に有名なピアニストもみなそうです。

神様にもらった性格がどんなに良くても人間は不公平なしに努力しなければそれを有効に使う事が出来ません。ピアノの勉強も一回や二回上手に弾けても、それはすぐ忘れてしまうのです。何回も何回も気が遠くなるほど繰返して初めて人間は体でそれをしっかり覚え、それを自由に使えるようになり音楽を楽しむ事が出来るのです。そして努力をする能力は子供の時に身に付けなければいけません。

 天才という言葉を人は勝手に誤解して、何も努力しないで出来る才能と思っていますが、天才とは素質を持っている上に努力を重ねた人ではないでしょうか。 【K】(1994.11.15.掲載)

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