聖徳太子は皆さんよく知っていますね。 日本歴史の年号等、学問的なことは別にして、ついこの間まで私達は聖徳太子と壱万円札で長い間親しく接してきました。
その聖徳太子のことを、私は小学時代に歴史の授業で習いました。子ども心に驚いたのは「聖徳太子は特別優れた人で庶民が何か生活について訴える時、七人の話を同時に聞いた」というものでした。普通の人は一人の人が言う事でもなかなか理解して聞き取れないのに、どうして同時に七人の人の言うことが分かるのか? その時の私にはどう考えてもただ不思議でした。
ところが何十年も過ぎてこの頃気が付いたのです。良いピアニストはまさに聖徳太子と同じ事をやっているではありませんか!
ピアニストは、まず簡単な二声(ソロと伴奏)から始まって三声〜五声と演奏する時は同時に、いくつもの音、即ち声部を聴き分けなければいけません。そうです、まさにピアノを弾くことは聖徳太子がやった事と同じ事が出来る能力を作る勉強なのです!
それはものすごく高度な集中する能力を作る勉強です。集中して同時に異なる音を聴き取る能力はとても難しい作業で、突然やろうと努力してもすぐに出来るものではありません。一人の子どもが最初にピアノを習い始めた時からこの勉強は始められなければ、その能力を作る事は出来ないでしょう。
例えば三才でピアノを習い始めた時から一つ一つの音を注意して聴く習慣をつけて下さい。レッスンの度に一つ一つの音を集中して聴かせ、やわらかい音楽の音と堅い非音楽的な音とを選べるように教え育てましょう。
そうすれば上級生になった時、聖徳太子と同じように五つの声部でも十本の指の音でも聴き分ける事が出来て、それぞれ音色を変えて美しい音楽を歌い演奏する事が出来るのです。ともかく最初(何才でも)にピアノに向かった時が大切なのです。根気よく忍耐と努力を重ねて集中して聴き分ける能力を育てましょう。
スズキ・メソードはCDを弾く前によく聴いて覚えて弾くので、この聴き分ける能力を育てやすいメソードです。
ただ本当に気を付けてほしいのは、CDで何となく沢山聴いてその曲を覚える仕事も一つの能力ですが、いくつもの声部を同時に聴き分ける能力は、一巻の時から子ども達に音楽の音かただのノイズか、長い音・短い音・重いか軽いか、を集中させて聴き分ける練習とメロディーを歌える体の使い方を教え始めないと、育たない能力なのです。
鈴木先生が才能教育を始められたきっかけは、子どもを初めから高いレベルを目指して育てれば大人などとうてい及ばない能力を作ることが出来ると気付かれたからです。
私達はいつも子ども達を育て損なわないよう努力しましょう。そして聖徳太子を大勢育てなければいけないのです。その集中力は音楽だけでなく、子ども達が将来成長して色々の分野で仕事についた時とても役に立つものだからです。【K】(1997.7.7.掲載)