才能教育研究会ピアノ科




コラム : 芸術の価値観
投稿者: river 投稿日時: 2006-9-29 2:13:57 (808 ヒット)


 今年の夏も又招かれてアメリカヘ行きました。
 一番目は、アメリカの東側のペンシルバニア州フィラデルフィア市でした。アメリカではどこの市も同じですが、ダウンタウン(繁華街)はそんなに広くなくまわりはすぐ郊外です。とてもとても木の多い所で、道路の両側の住宅も背の高い木がいっぱい茂っている中に建っていて、静かな森の中に住んでいる・・・といった感じです。日本人はすぐ陽が当たらねばと考えますが・・・、気候風土の違いからくる文化のせいでしょう。彼等は日当たりより、木を大切にしているみたいです。ペンシルバニア州というのは、“ペンさんの森”という意味だそうです。

 フィラデルフィアでの研究会を主催している、Joan Krzywickiさんのお家に行くと、お庭がとても広くテラスで夕食を御馳走して下さいました。庭先で何か動くものがいるので見ると、小さな可愛い野兎がその辺をピョンピョンとび歩いています。時々鹿も散歩に来るそうです。

 だんだん暗くなって来ると何か光るものが飛んでいます。この頃日本ではあまり見られなくなった蛍です。アメリカは広いので自然を楽しみながら、衣食はそんなに贅沢しないでおおらかに生活しているように思います。こんな環境ですと良い精神状態を維持できて良い音楽が弾けそうです。

 次の日、フィラデルフィアのダウンタウンに行くと高層ビルが立ち並ぶ中に市役所がありました。古いフランス風の建築で建物の廻りにたくさんの彫刻があります。それは美しい芸術的な建物です。10数年前にフランスのパリに行った時も市役所の建物があまりにも美術的に素晴らしかったのを思い出しました。そしてフィラデルフィア市では法律で決められている一つに、新しいビルを建てる時にはその建物に必ず美術的な彫刻をつけなければいけないのだそうです。日本のお役所とはまったく違った考え方をしていますね。

 夜になると高層ビルの形の線にそって小さい電気が沢山つき、車の中から見上げるとそれは美しくビルの林ができあがっています。どうしても日本の都会とどこかが違っています。アメリカは経済が悪くなって、都会には大勢のホームレスがいたり、その他も困っている問題もありながら、芸術は大切にしているのだと感じます。


 次に移った都会は南のジョージア州アトランタ市です。ここは皆さん御存知の「風と共に去りぬ」の舞台になったところです。この物語を書いた、マーガレット・ミッチェルの住んでいた家が町の中にあります。

 研究会の会場になったジョージアステイトユニバーシティがダウンタウンの真ん中にあるので、泊まっている所から毎日車で町の中を通ってかよったので気がついたのですが、立派なギリシャの神殿のような柱が表面に沢山並んだ10階建てほどの白い建物がありました。とてもアーティスティックなきれいなビルなのですが、どの階も柱と柱の間にどうやら自動車が置いてあります。そうです。駐車場なのです。びっくりして聞いてみましたら、駐車場はできるだけきれいにするか、建物の側面に沢山木を植えるよう市で指導しているのだそうです。日本は皆が努力し経済的に成功しているのですが、政治の中に芸術が忘れられている!と思わざるを得ません。

 帰りがけに立ち寄った、オレゴン州のポートランド市も町の方針で、道の横の地面に出来るだけ花の種をまいて美しい花を咲かせようとしていますし、又いつもの事ながらどこでも両親がピアノの教育にとても熱心で、誰もがピアノ(楽器)を弾ける事が素晴らしい事だと思い、子供が上手に弾ける事を誇りに思っています。勿論、彼らも学校の勉強も大切なのはよく分かっています。でもそれは50%迄で、残りの50%は芸術に向けられなければいけないと考えています。

 大分前のラジオで話を聞いたのですが、龍角散という薬の会社の社長さんが、戦前からクラシックが大好きでいつもレコードを聴いて暮らし、戦後になって大学生の時に独学でピアノを弾き始め、その後フルートも独学でマスターしてしまったそうです。会社にはオーケストラがあってモーツァルトのコンチェルトを社長自ら演奏されるとの事、そしてアメリカでもヨーロッパでも仕事で出掛けた時、招かれた家で一曲ピアノを弾くことで、あちらの方々が芸術のわかる教養のある人と認めて、いっぺんに仲良くなり仕事の話もスムーズにうまくいってしまう、と言っていらっしゃいました。ところが、日本では企業のトップの集まる会でピアノが弾けると言っても、誰も関心を示さないそうです。そうでしょうね!と私は妙に感心してしまいました。

 又これも別の話です。やはりラジオだったでしょうか、日本の有名な作曲家の方の話です。20年以上前の事ですが、彼の友達の通産省のお役人が家族を連れてドイツに仕事で移った時、子供達が学校に行ってもクラスの子供達も先生もあまり親切にしてくれなかったそうです。それで両親は困って、母親と子供だけ日本に帰ろうか?と考えていた時、小澤征爾さんがベルリンフィルを指揮したというニュースが広がりました。

 そうすると次の日から急に学校で皆が仲間にしてくれたのだそうです。それは、初めは日本なんて何の文化もない東の方の小さな国でそこから来た野蛮人ぐらいに思っていたところ「我々の誇りにしているベルリンフィルを指揮できる日本人がいる。日本人も芸術がわかるんだ!同じ仲間なのだ」という事なのだそうです。

 欧米ではインテリジェンスのある人達は、芸術がいかに人間にとって大切なものであるかを知っています。日本はそれが、入学試験勉強のために犠牲になって、子供達に芸術の勉強をさせる機会を作っていません。これで日本の将来は大丈夫なのでしょうか?

 新しい政府が出来ましたが、閣僚の中に何人楽器の弾ける人がいるのでしょう。アメリカではクリントンだってサキソフォン(?)をかなり上手に弾けるのだそうですけど・・・ 【K】(1993.9.16.掲載)

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