日本を離れてアメリカに行くといつも感心してしまうのはアメリカ人の挨拶の仕方がとても上手なことです。
まず毎日毎朝会っている人でもオハヨウだけではなくハウアユー・ディスモーニングと何か言葉を続けます。答える方も必ずアイム・ファインなり、何なり言ってサンキューエンド・ユー?となります。言葉を上手にポンポンと掛け合います。
次にレストランに行くとウェイトレスでもウェイターでも実に愛想がいいのです。勿論チップの国ですからチップをいただくからには出来るだけ二コ二コしてやさしい声を出すのでしょう。それでもそういう努力をしていると結果的には、とてもやさしい良い人になっていくような気がします。そしてサービスを受ける方も水一杯でも、コーヒーひとつ持って来てくれた時もThank youと挨拶します。そして相手もそれに応えます。アメリカと比べて日本のレストランではほとんど無言でサービスが行われています。(日本だってお勘定の中にサービス料は含まれているはずですけど・・・・)
次に家庭の中でも親子・夫婦が一寸した事でもThank you、Excuse meとお互いに手まめに言葉を交わしています。素晴らしいと思うのは親が子供を独立した人間、一人の人格として礼儀を立て、それが挨拶に出ているように思えます。
ホテルやビルのエレベーターの中でも10人中8人から9人まで乗って来た人に“ハイ”とか何とか声をかけます。声を出さない時は顔でニッコリします。エレベーターというのは一寸した密室です。何となく知らない人同士で、堅いいやな空気になるのを挨拶がやわらげてくれます。昔山を歩いた時、登りと下りとすれちがう他人が必ず“こんにちは”と挨拶したのを懐かしく思い出してしまいます。
英語という言葉がリズミカルで言葉を交わしやすく出来ているのかな? とも思いますが日本でも昔はもっと隣り近所仲良く付き合い、親子も挨拶をきちんとしていたように思います。日本は敗戦後、経済では大成功したのですが心の問題で何かを失ってしまったのではないでしょうか。
今の若い人達は、本当に人間の基本とも言うべき挨拶“こんにちは”“さようなら”“ありがとうございます”“すみません”などが言えません。4月になると立派な会社の新入社員の教育で、若い人達が大きい声で挨拶の練習をさせられている姿を見るたびに、今の家庭教育は「学校の成績」にばかり気を使ってしまい、人間の基本の挨拶を教える事を忘れてしまっているんだなぁと思い残念でなりません。
今この原稿をアメリカからの帰りの飛行機の中で書いているのですが、たまたま隣に座った16才の日本人の女の子。困っている時に一寸手伝ってあげても何をしても“ありがとう”という言葉が一切言えません。素敵なお洋服を着てきっと良家のお嬢様なのでしょうが・・・。日本の将来が思いやられます。
言葉は大切です。人の心を伝える大切な道具です。上手に挨拶が言えるよう毎日練習しましょう。
ピアノの奏法も絶対に基本が大切です。そしてそれを繰り返し練習する事が必要です。人間が良い社会を作って上手に楽しく生きていくには、ピアノの奏法と同じように何事も基本を大切にすることが、幸せにつながる道だと思います。【K】(1993.7.15.掲載)