才能教育研究会ピアノ科




コラム : 基本 Basics
投稿者: river 投稿日時: 2006-1-11 2:18:41 (925 ヒット)


 「ものごとのおおもとになるもの。そこからいろいろなことが発展したり、変化したりする。」国語辞典を引くと、こう書いてあります。尚、おおもと(大本)を引くと「ものごとの基礎になる一番大事なところ」とあります。そうです。基本というのは何か物事を始める時、一番大切に丁寧に取り扱わなければいけないものなのです。

 学校で習う勉強でも、国語、数学、英語、それぞれ大切な基本があるはずです。ある大学浪人の生徒が駿台予備校に一年通って、そこで「数学の基本を徹底的に教わったおかげで、私はどんな問題でも解けるようになった」と言っているのを聞いた覚えがあります。

 スポーツの世界では、一番よく基本々々と言っています。体を使い、結果がすぐ分かりやすく出る世界なので間違わないのでしょう。音楽だって同じです。ピアノの弾き方もそうです。基本さえしっかり身につければ、どんな曲だって理解し弾けるようになります。

 ところが今迄の子供の音楽教育は、子供は何も幼稚で分からないという間違った考えから、いい加減に遊び半分にお相手をして基本なんかすっかり忘れて、ひどい教え方をしています。音楽は音ですから目に見えません。手で触ったりつかまえたりする事も出来ません。それですっかり、いい加減にしてしまうのです。

 建築等は一目瞭然です。基礎をいい加減にして、その上に建てた家は安全といえません。ビルディングにしても同じです。基礎がしっかりしていないで、気楽に造った家はエジプトの地震の時のように六階建ての建物がすっかりつぶれてしまうような惨事が起こります。

 一階が出来ていないのに二階や五階を造る事は不可能だということは、はっきり分かった事です。ところが音楽の教育の世界では、基礎などいい加減で一階も二階もまだ出来ていないのに、五階を造るような事が平気で行われています。いざというプレッシャーがかかった時つぶれるのは、おそまつなビルディングと同じです。(プレッシャ−とは演奏会、入学試験等々)


 さてそれでは、音楽の基本と言うのは、どんな事なのでしょう。
 ピアノの場合一つの音をどうやって鳴らすか、どうやって最高の音楽的な心のこもった音を鳴らすかが大本の基本です。そしてそれを作るのに、ピアノという楽器と一人の人間が必要です。そして楽器を取り扱うのに、どういう体の状態でのぞむかが基本の問題です。

 人間が何かする時、最高に大切な事は体の自然を守り不自然な力が働かないように気を付ける事です。ピアノを弾くには、手の指を使います。その指がどうしたら、自然に無駄なく使えるか考える事が一番の大本です。そして基本はいつもとてもシンプル(簡単)です。あまり簡単なので人はうっかりそれを忘れます。人間はどういう訳か難しいものにあこがれる性格があります。勿論それは悪い事ではありませんが、常にやさしい基本を忘れてはいけないのです。

 昔から優秀な音楽の指導者はよくよくこの基本が大切な事を知っていました。そしてその基本だけを元にして練習曲を作っています。(ツェルニー、ハノン等々いっぱいあります)このエチュードは理論的にはとても正しいのですが、大人になってこの基本問題の重要さが理解出来て、簡単な基本の繰り返しを、覚悟を決めて練習出来る大人はいいでしょう。しかし子供達は基本だけを取り出してそればかりやらせられると、すぐ退屈していやになり音楽が嫌いになってしまいます。

 それですから、子供達には楽しい曲を使って、音楽を楽しみながらその中で基本を教える方法を取らなければならないのです。子供達を教える先生はここに心してほしいものです。又、一緒に勉強するお母さん達もレッスンで、先生に注意される同じ事をどうぞ「いつもいつも同じ注意で家の子はほんとに駄目な子」などと言わず、それが大切な基本なのですから、この勉強法に協力して下さい。

 一巻から基本を学び二巻、三巻、四巻・・・になると、曲が少しずつ難しくなりますが、基本はいつも簡単な事ですが、進んだ曲の段階で同じ事を学ぶのです。上級生になっても基本は同じです。いつも歩く時は足元を見るように、何事も一から始まる事を忘れないようにしましょう。【K】(1993.1.21.掲載)

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