才能教育研究会ピアノ科




コラム : ピアノの音・音楽の音(1)
投稿者: river 投稿日時: 2005-2-28 1:33:42 (940 ヒット)


 ピアノという楽器は、誰がさわっても音の出る楽器です。いいえ、人でなくても鍵盤の上に物を落としてもピアノは音を出します。又、猫が歩いても音が出ます。それですから他の楽器(弦楽器・管楽器・声楽など)を弾く人は「ピアノは楽ですね。音が簡単にすぐ出るんですから。私達の楽器は音を出すために、いろいろの手続きや努力が必要ですし、音程も自分で作らなければなりません。それに比べるとピアノはやさしいですね!」と言います。

 ところがそれが大違いですべての間違いの元なのです。世の中のほとんどの人は音楽家のプロではありませんので、ピアノから発する音は即ち音楽の音だと勘違いをしています。ピアノという立派な楽器から出る音は、音楽なのだと信じて疑っていません。

 一般の人が分からないのは仕方のない事ですが、ピアノの先生と名の付く人が世間の人達が分からないのを良い事にして、いつの間にか『音楽の音』という大切な問題をないがしろにしています。先生は、ただの音(ノイズ)でなく、音楽の音を教えなければいけません。生徒はレッスンに来て、先生から音楽にとって一番大切な良い音を、教えてもらうのがレッスンです。勿論その他の曲についての専門的なアドバイスも教わらなければいけませんが、何よりも大切なのは、音楽の基本で音楽の音です。

 なぜかと言うと、音楽で一番大切なことは、その音に歌に心や魂がこもっていなければいけないからです。
 悪い音(ノイズ)は、堅い指で、たたいた時、ぶつかった時に出る衝突音です。こう言うと、大きないやな音がまず頭に浮かびます。勿論、大きなノイズはとてもいやなものです。そして、次には皆さんが気が付きにくい、小さいノイズ(悪い音)です。これは、指だけでさわった音で浮いた音です。浮いた音は、大きい騒々しいノイズと同じで拍子もリズムもとれません。ただ曲を覚えて、この浮いた音とその他の、たたいたりぶつかったりのひどい音でピアノの曲を弾いて、それが演奏だと間違えている人が世の中にはたくさんいます。


 本当の音楽の音は、指先で心からの思いを込めて鳴らす手続きをした時に、初めて鳴り響きます。このピアノを鳴らす手続きを先生は、10年〜15年かけて生徒達に教えなければいけないのです。ピアノは誰がさわっても、たたいても音が出る楽器であるばっかりに、皆さんそのインスタントな音で、曲が弾けたと思ってしまうのです。曲を一つも間違えないで覚えていても、音楽の音でない音で演奏した時には、音楽になりません(時々、そういうコンサートがあります。それで皆、クラシックが嫌いになるのです)。

 それでは、どうして沢山のピアニスト又はピアノの先生がそんなひどい音で弾いているのでしょう。それは、音楽学校に行っても、みんな仲間が堅いひどい音で弾いているからです。人間はいつも、多数に支配されてしまいます。ある若いピアニストが、私の「どうしてそんなひどい音を?」と言う質問に、「世界中どこに行っても皆、そうやって弾いているので、その方が良いのかと思った」と正直に話してくれた事があります。

 世界で超一流のピアニスト達の中で最近聴いた、ラドゥ・ルプー、野島 稔さん、ポリーニ、CDで聴いた名人、ルービンシュタイン、ギーゼキング、ホロヴィッツ、グレン・グールド等々は皆、心と魂が込められる音楽の音で演奏しています。

 私達は皆、生まれた時、神から与えられた心と魂を持っている人間です。せっかくあるものを、悪い音(ノイズ)を弾く習慣をつけてしまったばっかりに生かせないのは、とても残念な事です。練習時間が少なくて、曲が進まなくてもいいし、又は覚えるのが遅くても、そんな事は少しも問題ではありません。心の込められる、本当の自然な音楽の音を使ってピアノを弾ける事が、一生を通じて大きな喜びになるはずです。

 ピアノは音の問題を考え指導する時、とてもむずかしい楽器です。どうぞ、教える方も、習う方も心してもう一度考え直し、集中して音を聴き、良い悪いを判断出来るよう勉強してほしいものです。

 次回、良い音を鳴らせる方法、そしてそれは初歩の時からしなければいけない! という事を書く予定です。【K】(1992.2.27.掲載)

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