「近頃のお母さんはとても優しい」先日中学校のO先生が話して下さいました。「雨が降り出すと、校門の前は子どものお迎えに来たお母さん達の車でいっぱいになるんです。そして校内の電話の前にはテレホンカードを持った生徒達が長い行列を作って、家に電話をかけほとんど命令口調で『迎えに来て!』と言うんです」
私は自分の小学校の頃を思い出しました。それは東京の私立の学校だったので学校に近い人は少なく、みんな電車やバスに乗って通学していました。それでも雨が降り出すと、傘を届けてくる親も少しはいました。
私の家は20分程で歩いて帰れるところでしたが、母はどんなにひどい雨降りでも傘を届けてくれた事はありません。そうなると、小学生でもいろいろ工夫をします。
同じ方向へ帰るお友達に「傘持ってる?」と聞いて「持ってる」と言うと、「お願い! 帰り一緒に入れてって」と頼みます。学校の帰りにピアノのレッスンに行かなければいけない時など、目白駅に着いてから商店街のどこを通れば比較的濡れないか・・・等々、考えたものでした。
そして、朝家を出る時、空を見上げて傘を持つべきか、必要なさそうか、自分で判断したのを覚えています。子どもは過保護にしてはいけないのです。困らせることで、物を考えるようになり自分で責任を持つことを覚えるのです。
11月30日の10台のコンサートでも私達は勉強させられました。それはハイドンのソナタ1楽章を弾く10人の生徒達でした。
もうこの位の上級生になると、覚えてひと通り弾ける曲はのん気に構えてなかなか練習しません。30日のコンサートまでもう一週間という時のリハーサルです。練習が始まって弾き始めると、勿論間違ったり止まったりすることなどなく弾けるのですが、私が2〜3日前のリハーサルで「こういう風に練習しなさい」と言ったところ何ヶ所かほとんどやっていないのが分かりました。
それで思わず私は「誰一人、本気で練習してない! こんな人達が集まってリハーサルをやっても何の意味もない、帰りなさい! そして練習して夜8時に出直して来なさい」と怒りました。
その時、私の頭の中でちょっと可哀想かな、それに3〜4人遠い人がいる、家まで往復3時間・・・それでは弾く時間がない、どうしようと思ったのです。でも心を鬼にして「帰って練習してきなさい!」と言いました。それは午後2時過ぎだったでしょうか。
その夜、10人がそれぞれ練習してもどってきました。そして弾き始めました。ずっと一日中見学しているアメリカの先生方、私も含めて他の先生達も『あっ!』と驚きました。ものすごく上手な演奏になっていたのです。数時間前の演奏とは考えられない程、素晴らしく高いレベルの良い演奏になりました。
私はそこで本当に心を鬼にしてよかった! やっぱり大人は子ども達に対していつも厳しく接していかなければいけないのだとつくづく思いました。それと子どもってすごい! 怒られてやる気になって、たった3時間か4時間練習してあんなに変われる!
何でも勉強して身に付けるには、子どもの時の能率が最高なのです!みんな頑張りましょう! 【K】(1997.12.8.掲載)