人は、生まれた時から同じことの積み重ねを始めます。
まず毎日生きるためにしなければいけない、寝たり起きたり、食べたりがそれです。ところが誰でも同じことの繰り返しをしなさいと命令されると「同じことを繰り返す? そんなバカなこと!」と思います。同じ単調なことを繰り返すなんてくだらない、退屈で死にそう、もうこんなつまらないことは止めてもっと難しい高級なことをやるんだ! と思います。
それでもなぜ同じことを繰り返し積み重ねなければいけないのでしょう。
それにはまず、人は頭で分かる事と体で出来る事が全く違うということを知っていなければいけません。私も子どもの時は『分かった!』と『出来る!』とは同じだと考え違いをしていました。それは母に同じことをしつこく注意されると「分かっているのにうるさい! どうしてそんなに同じこと言うの?」と考えたからです。
大人になって世の中で生活してみるとそれは大間違いだったという事が良く分かりました。例えば、早起きをする事は良い事だ、怠けないで勉強する事も良い事だ等々、みんな分かっていてもなかなか簡単に出来るものではありません。
それではそれを出来るようにするには、どうしたらよいのでしょう。
答えは簡単です。 何も考えないで同じことを繰り返すのです。
頭だけでなく体を使ってやるお掃除でもいいし、ピアノの練習でもいいし、お料理でもいいのです。 毎日々々同じ事を繰り返していると、体が少しずつその動きの中で何かを覚えます。そしてその中で一段階目のレベルでそれが考えないでも出来るようになります。
そうすると二段階目の事が見えてきます。 そこで又同じことを飽きずに繰り返していると、次の三段階目へ行かれるのです。そして次々に出来る能力が育っていきます。それを頭で考えて短時間にそれをやろうと思っても無理です。それは世界中の人間で誰もそれをやれた人はありません。 世の中の仕事のどんな分野にでもこの法則は当てはまります。
長い月日をかけて体で出来るようになった能力は、その人の命がある限り無くなることはありません。 簡単な例で言えば母国語です。生まれた時から沢山聞いて、繰り返し同じ事を喋った能力は死ぬまで忘れることがないでしょう。
だい分前にTVで見たのですが、陶芸で人間国宝になられている方が学生の頃、お寺の仕事を手伝った時の事を話されました。「毎朝々々、山門からお寺の本堂までの長い参道を掃除しました。 その同じことの繰り返しが今の私の作品にとても役に立っています」と。
どうぞ皆さん、子ども達に退屈な単調な仕事を毎日たくさんやってもらって、それをいやがらないで汗を流してやれる人間に育てましょう。
子どもの時代は大人のように計画的にものを考えられない時です。 どうしても近くにいる親が同じことの積み重ねが上手に出来るよう、助けてあげなければいけないのです。
忘れないで下さい! 体を使ってやる単調な動作の積み重ねは、とてもとても大切なものなのです。 【K】(1997.6.1. 掲載)