才能教育研究会ピアノ科




コラム : レガート Legato 〜正しく歩くようにピアノを弾きましょう〜
投稿者: river 投稿日時: 2006-12-9 3:02:00 (1027 ヒット)


 私達人間は二本足で立って腰で身体のバランスをとって歩いています。みんな上手に歩いています。足の裏がやわらかくて一歩前に足を出すと、まずかかとから地面につけ、次にしなやかな足の裏と五本の指で地面をつかむようにして地面と接触し、次にかかとを上げながら地面を後に押し、この時もう一本の足で次の一歩を前に出します。これの繰り返しで上手にぎくしゃくせずなめらかに歩いています。

 もしも足がオランダの木靴のように堅いものをはかせられたと想像してごらんなさい。足の裏のやわらかさを使うことが出来ず歩きにくくなってしまうでしょう。その上足を堅くして板のようにして地面にぶつけたりして歩くと、地面とぶつかるショックで疲れてしまい長く歩く事などとても出来ません。勿論、歩くには身体全体のやわらかさと良いバランスが必要ですが直接地面に触れる足の裏(指も)のやわらかさが一番大切なのは歩いている人でしたら誰でも分かる問題です。

 さて前述のようになめらかに歩くことがレガ−トなのです。レガ−トの意味は、なめらか・静か・切らない・アクセントがない等々です。レガ−トの反対はスタッカ−ト(切る・跳ぶ)です。人間もレガ−トに歩くのが基本ですが、それが充分上手に出来る人はジャンプしたり、跳んだり、踊ったりする事が出来ます。

 さてここでピアノのテクニックのレガ−トの話をしましょう。ピアノを弾く時は身体全体を使いますが、歩く時に足が直接地面にふれて動くように実際にピアノで音楽を弾くことになると、両手を使います。そして左右とも五本の指が直接鍵盤に触れます。一番直接関わるのは指先です。

 歩く時、直接地面に触れるのは足の裏であるように、ピアノを弾く時にキ−に触れるのは指先なのです。指先を歩く時の足の裏のようにしなやかに柔らかくし、触れた鍵盤を足の指が地面をしっかりつかむのと同じように動かさなければ、五本の指でなめらかなレガ−トを作る事は出来ません。ピアノの奏法の中で一番大切なもの、また一番難しいのもレガ−トの奏法です。


 ピアノは何か堅いものがぶつかると音が簡単に出る楽器なので、皆さんつい指先を堅くしてぶつけてガンガンガラガラ弾いてしまいます。又一方でピアノはそっと触っても音が出てしまうので、指先を動かして一つずつ歩く時の足の裏がやっている手続きを忘れて、手首などを振りながら弾くと指先が浮いてしまって何となく頼りない音を出してしまいます。

 昨夏、アメリカのアトランタで先生方にレガ−トを一生懸命教えている時、一人の先生が英文で書かれたワルタ−・ギ−ゼキング(皆さんご存知ですね、ピアノの巨匠です)の本を持って来て、「貴女はこれを読みましたか?」と質問しました。それで「私はとても英文の本を読む事は出来ません」と答えましたら「ここに貴女が言っている事と同じ事が書いてある」と教えて下さいました。

 そうなのです。指先を一つずつ丁寧に足の裏のように使う習慣をつければ、タッチのはっきりした良い発声の音楽がレガ−トで弾けるのです。そして忘れてはいけない事は、神が私達に与えて下さった五感の一つ、指先の触覚を大切にする事です。人間の体の中で一番敏感なのは指先の触覚です。鍵盤と衝突しているような堅い指で弾くと、せっかくの素晴らしい指先の触覚も何も感じない木のような堅い死んだ指になってしまいます。

 どうぞ皆さん、レガ−トを勉強して下さい。ピアノを弾くにはどうしてもレガ−ト奏法が上手に出来る事がまず出発点です。初歩から一巻からいつもいつもレガ−トに気を付けましょう。そうすればあなたは間違いなくピアノで上手に自由に音楽を楽しめる人になれるでしょう! 【K】(1993.12.17.掲載)

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