7年程前にイギリスを訪問してから、ずっと行ってなかったヨーロッパへ久し振りに出掛けました。ベルギーのブリュッセルです。スズキピアノの先生方のための研究大会でした。
ヨーロッパはアメリカ・カナダ等と比べ保守的な考え方の人が多いので、スズキピアノはまだまだアメリカほど盛んではありません。それでも松本へ勉強に来た先生方がそれぞれの国に帰り、若い先生方を教えて少しずつ広まっています。
それでも嬉しい事に世界各地から100人の先生が集まりました。ベルギー・オランダ・イタリア・イギリス・フランス・フィンランド・アメリカ・日本等々で、エストニアの先生も1人ポーランドからもバスで何日もかかって先生が3人いらっしゃいました。
会場はブリュッセルのコンセルバトワール王立音楽院でした。古い石の立派な建物でコンサート用のホールは、まわりの座席がロイヤルボックスをはじめとし、他もみなボックスの席になっています。よく写真などで見るクラシック調の素敵なホールです。天井が高く音がよく響いて気持ちのよい会場でした。石の建物は音がよく鳴ると聞いていましたが本当です。かの有名なエリザベートコンクールの時にもこのホールが使われるのだそうです。
ここで5日間、朝の9時から午後5時迄しっかり研究をし、夜は4日間毎日午後8時からコンサートという強行スケジュールでした。
いつも感じる事ですが世界中どこの国へ行っても親の願いは皆同じで、我が子をよりよく育てようと一生懸命です。そして少しでも子供達のために自然な良い教育をと願う素晴らしい先生方がおられます。
そんな5日間を過ごすうちに今回はいろいろな事を考えさせられました。
それは、私達日本人はなんて幸せなよい国に住んでいるのだろうと気が付いたことです。ブリュッセルでは、朝起きて窓のカーテンを開け空を見ると雲の間から陽がさしていて「あ、今日は良いお天気ね」と思い身支度をして下に降りてホテルの玄関を出ると雨が降っています。
ゴロゴロした石畳の道を傘をさしながら下ばかり見て、つまずかないよう歩かねばなりません。きっと16世紀か17世紀の頃作って、その時代には素敵な発想でしっかりした道だったのですね。それが今は多分経済の問題で直せないのでしょう。ところどころ石が抜けて穴があいていてもそのままです。とてもヒールの高い靴など履いて歩ける道ではありません。(今、日本の道路が一番良いのではないかな?)
その上いつも曇っていて、寒い上に暗い雰囲気です。聞くところによるとヨーロッパのほとんどが一年中、陽があたる事が少なくこんなお天気なのだそうです。それで少しでも陽が出ると、それにあたりたくティールームやレストランでは店の前の歩道にテーブルと椅子をぎっしり並べ、皆さんそこに座ってお茶を楽しんでいます。私は一寸きれい好きなので、そのすぐ横を忙しく往き来している車の排気ガスと埃もついでにコーヒーと一緒に飲んでしまいそうで気になります。
それと市の中心部の家はみな、石の建物で隣どうしが全部くっついています。ほとんど3階か4階建てで玄関を入るとまず階段で、2・3・4階と続いています。横に広くなく縦に広く作られています。ヨーロッパ大陸は北アメリカ大陸と比べるとやっぱり狭いのですね。この狭さには何となく親近感を感じました。日本は七割近くが山で平らな所が少ない国ですから、家が狭いのは同じです。
ただヨーロッパは石の文化で石の立派な建物が多く、見ているうちに石の堅さ重さからくる圧迫感でだんだん疲れを感じてしまいます。有名なブリュッセル市の欧州随一のグラン・プラス広場は、ルネッサンス、ゴシック等の様式の金箔をちりばめた立派な石の建造物で囲まれ、その中の市庁舎を見ると“これが市役所!”と考え込んでしまいます。多分随分使いにくいのではないでしょうか。町の中の証券取引所、検察庁などもものすごい立派な宮殿のような古い石の建物です。
それと教会の多いことに驚いていると“ベルギーは80%はカソリック教徒ですよ”と言われます。カソリック(旧教)はなかなか戒律の厳しい宗教です。神はただ一人だけで他の宗教の神は絶対に認めません。あぁ、やっぱりと思うのは、宗教は必ずその土地の気候風土にあった宗教がそこにあるのが常だからです。
「お天気は悪い、寒い時が多い、陽はあたらない、水は悪い(飲み水は買わなければいけない)土地は狭い、いろいろな国が隣あっている、石の文化でそれを守らなければならないハメになっている」これだけ厳しい事の多い所では、厳しい宗教を持って厳しい強い性格でなければ生きていけないのだなぁとつくづく思いました。
それに比べると日本はどうでしょう。陽があたり水が豊かで木と紙の文化、島国で他国におびやかされる事が少なく暮らしてきたため、お人よしの性格で結婚式は神前でお葬式は仏教でと何のわだかまりもなく、両方を自然に受け入れてしまっています。それは住んでいる環境が豊かだという事ではないでしょうか。アメリカも、土地は広く陽もサンサンとあたり人々はのびのびと明るく暮らしています。
ヨーロッパの何世紀も前の過去の人々の作り上げた偉大な文化と芸術作品には感動しますが、今自分の住んでいる日本の国も素晴らしい所なのだと本当に今回はヨーロッパを見て思い当たりました。もう一度感謝して一生懸命良い仕事をして生きないといけないと反省しました。
そして他の国の環境を知ることでそこに住む人の考え方を批判するだけでなく理解し、お互いに思いやって世界中仲良くしなければいけないのだとつくづく思いました。“井の中の蛙”のように自分のことだけしか分からないで、自己主張するのでなく広い外の違った環境を知る事でお互い仲良くする道を見付けるべきだと思いました。
海外に旅行する事は自分を知り、また文化の違う所に住んでいる人の事を理解するとても良いチャンスですね。 【K】(1994.4.25.掲載)