才能教育研究会ピアノ科




コラム : 自然体の大切さ
投稿者: river 投稿日時: 2008-6-30 23:45:38 (1006 ヒット)


『あの子は体が堅くて駄目なのよ』『だから上手く弾けない』これは、ピアノの先生がよく言ってしまうセリフです。

 幼い子がピアノのお稽古でキラキラ星のリズムを弾き始める時、子ども達はその体に一人一人異なった反応を示します。緊張のあまり体をカチカチにしてしまう子、一生懸命で堅くなる子、消極的ではっきり動けない子、皆それぞれ千差万別です。

 例えると、堅くなった子は結果的にピアノを叩く事になり、ひどく汚い大きな音で弾いてしまいます。そんな時「小さい音で弾きましょう。聴いてごらん、こんなふうよ」と先生が静かなきれいな音で弾いてみせると無駄な力が抜け、子どもの体は自然体になります。

 初歩の時は大きな音を要求しない事が体を堅くしないですむ大切なポイントです。そして先生が毎レッスン必ず良いお手本を口で説明するのではなく弾いてみせる事がとても重要な事です。こうすると子ども達は、生まれながらに持っている自然を壊されないで、ピアノのレッスンのスタートを切る事ができます。

 子供の時代は、知識が発達していないので感性ですべてを受け取る時ですから、まわりにある物が良いか悪いか自分で判断する事が出来ずに、吸い取り紙のように見たもの聞いたものをすべて吸収してしまいます。それですから先生の弾くお手本はとても大切なのです。

 人間は生きている限り、いつも体が堅い人など絶対にいません。人間本来天から授かった自然を持って生まれていますから、誰でも本来の自然体は持っています。外から何かの刺激があったために堅くなった時に、まわりの大人が生まれながらの自然に戻れるよう指導してあげなければいけません。

 19〜20世紀のピアニストの中で、何人かがピアノの奏法について色々な本を書いています。その多くを見てみると、どのピアニストも苦労し研究しているのが、体の自然と一緒に、集中し気合いの入った心のこもった音楽を作る事です。そしてその中で一番大変なのが気持ちを集中させ緊張しながら体に無駄な力を入れない方法を会得する事です。普通の人は誰でも一生懸命と緊張が始まると体に力を入れてしまうのです。

 5月25日に松本の音楽文化ホールで有名なバイオリニスト、ギドン・クレーメルのコンサートがありました。ピアノ科の先生・研究生皆で聴きに行きました。
 素晴らしい音楽の音での演奏で、皆一日の疲れをいやされる思いでこれこそ本物! と感動しました。

 そして音文ホールはそんなに広くないし、真ん中あたりの席だったので弾いている姿がとてもよく観察できました。彼はデリケートなpp を弾く時もffで速く弾く時も、体がまったく自然で無駄な力がどこにも入っていません。極端な表現をすると、天井から糸でつるされた操り人形のようです。それでいながら彼のバイオリンから出る音は美しく、澄みきった音、情熱の入った速いパッセージなど、どれを取っても素晴らしい、そしてしっかり構成された音楽です。

 ただバイオリンの美しい音楽を聴きに行ったつもりが思いがけず、体の自然を保つにはどうしたらいいのか、もっとしっかり勉強しなさい、と神様から課題を出されたような気がしました。

 いつも人生って思いがけないところで思いがけなく素晴らしいものに出合えるのですね!  子どもの自然体を壊さないよう、先生またはその子ども達のご両親、気を付けて行動しましょう。 【K】(1995.6.21.掲載)

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