才能教育研究会ピアノ科




コラム : “聴く”
投稿者: river 投稿日時: 2009-8-1 1:42:11 (903 ヒット)


 音楽を勉強したいと思ったら、まず最初に必要なのは音楽を聴くことです。

 例えば、ピアノで何か一つの曲を弾きたいと思ったら、賢い方法はピアノの前に座って楽譜を眺めないで、まず朝から晩までその曲をCDなりレコードで聴いて下さい。一日でも二日でも一ヶ月でも半年でも聴き続けてからピアノの前で楽譜を眺めて弾いてごらんなさい。驚くほど簡単に覚えて弾く事が出来ます。


 勿論、ピアノを弾くテクニックを何も持っていない人が、いきなり難しいショパンとかリストを完全に弾くことは無理でしょう。でも沢山聴いていればその中の美しいメロディーを単旋律で弾くことは不可能ではありません。

 でも『聴く』というのはひと仕事ですね。自分の要求でこれを聴こうと集中して聴いたり、リラックスしたりで聴く時は問題ないのですが、一日中、同じ曲が聞こえていたら時にはいやになったり、うるさかったりする事もあるでしょう。

 私にもそんな経験があります。ではどうしてうるさくなるのでしょう。それは、聴くからなのです。いくらCDが鳴っていても聴かなければ、ちっともうるさくないし、飽きる事もありません。『聴く』って簡単に言いますが、聴き方にもいろいろあるのです。

 何かの雑誌で読んだことのある中国の「荘子」の書いたものをよく味わってみて下さい。

   耳で聞かないで、心でお聞きなさい。
   いいえ心で聞かないで、気でお聞きなさい。
   耳では聞くだけで、心は認識するだけです。
   しかし気は無ですべての物はそこにあるのです。 


 そうなのです。気で聞いていれば、飽きる事もうるさくなる事もないはずです。

 子どもは左脳が発達していないので、小さい音でいつもCDかテープを鳴らしているとそれを気で聴いて、すべて聞き取り自分のものにする事が出来ます。生まれた時から聞く母国語も同じように気で聞いているので、総ての子供がうるさい、飽きた等と言わずに日本語を身に付けてしまいます。努力して覚えようなどという事は一度も考えていないでしょう。

 今年6月にアメリカのベリングハムのワークショップに参加したアメリカ人の子ども、リンジィーがみんなにそれを教えてくれました。

 彼女は7才の可愛い女の子です。レッスンの時、一巻のクリスマスディ・シークレットをとても上手に弾くので「もう少し先の曲も弾けるでしょう?」と聞くと、いつも家で一緒に練習している父親が「いや、私が忙しくて練習する時間があまりないのでそこまでです」と言います。

 それで「一日どれくらい聴かせていますか?」と質問しました。そうすると返事が素晴らしかったのです。「24時間。貴女がいつもそう言うでしょう。だから私の家は24時間、音楽を小さい音で鳴らしています」

 そうか、それで練習が少なくてこんなに上手なのだと思っていると、リンジィーが「私、この曲覚えちゃった」と言って、右手だけでしたが三巻のクレメンティの3楽章をとっても、とっても上手に弾いてみせたのです。テンポ・リズムとも最高に上等でした。

 そこでレッスンを見学していた50人程の先生方はびっくりしてしまいました。だって彼女は今、一巻を勉強中の生徒ですから。

 素直に気で聞く事が出来る子ども達の時代は本当に素晴らしいですね。私達大人にとっては羨ましいばかりです。【K】(1996.7.16.掲載)

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