才能教育研究会ピアノ科




コラム : 自由 Freedom
投稿者: river 投稿日時: 2007-9-30 1:34:26 (1146 ヒット)

 自由という言葉は素晴らしい言葉ですね。自由であれば何もかも思いのままに自由自在に出来て他から邪魔される事もなく、幸せ一杯で天空を翔びまわるような晴々した気分になる事でしょう。他人にうるさく干渉されると自分の自由がなくなるから、人は本来束縛される事が嫌いです。

 一番身近な問題で毎日のピアノのお稽古があります。一週間に一度のレッスンに行った時、先生に「ここはこういう風に直しなさい。そして毎日これを繰り返し練習してね」と宿題に出されると、親子で毎日それを練習しなければなりません。

 親は我が子が可愛いいですから、熱心に良い練習を沢山しようとします。そしてかなり強く子どもに「こうしなさい」「ああしなさい」と、ついつい沢山注文してしまいます。

 子どもの性格がゆっくりタイプだったり、少しおとなしい子だったりすると、それは随分その子の自由を押さえつけるプレッシャーになるでしょう。それでも親は一生懸命愛情と一緒に夢中でやっているのですからそれに気が付きません。

 人間は自由を失うと自分の力を充分に発揮する事が出来なくなります。ピアノのお稽古だけではありません。学校の勉強だって他の事だって同じです。上手な指導者や親はその子の自由を奪わないようにして、自分から生き生きと自由の中でやる気を起こすように指導しています。

 今年の夏、アメリカ旅行に参加したT君は落ちついたゆっくりタイプの良い子です。今迄一人っ子だったので人前で演奏するといろいろな事を気にしすぎてのびのび弾けませんでした。

 そんな中でアメリカのコンサートで弾く事に決めた曲は、難しい曲になってしまいました。私は一寸心配でした。今迄の彼の弾き方からすると、こんな長い難しい曲は一寸無理かな・・・? でもいいでしょう、何もかも経験だからと思い旅行に出掛けました。

 ところが驚いた事に最初のアトランタのコンサートで、とてもすらすらと流れるように上手に弾くではありませんか! 今迄こんな風に上手に弾くT君を見た事はありません! 彼は親の元を離れて一人で初めて自由になっているのです。

 次に行ったサクラメントでは「ねえ先生、僕一人で練習するの大好き! お母さんいない方がずっと良く練習出来る」と嬉しそうに言うのです。自由というのはこんなに人をのびのびさせるのだと今度もT君に教えられたような気がします。


 でもここで一寸注意しなければいけません。T君がアメリカで自由にのびのびと演奏できたり練習が楽しかったりするのは、その前に辛い毎日の練習をお母さんがしっかり厳しくやってあるからこそ、自由になったとき楽しめているのです。

 時々人は間違えて、ただの快楽的な安っぽい自由を自由だと思い違いしてしまっています。好き勝手に自分の本能的な要求のままに行動して、人に迷惑をかけているのも気が付かず、自由だ自由だと思い込んでいる人が随分沢山いるような気がします。

 ピアノの勉強もその子が自由にやりたい時はやる、やりたくない時はやらない等と言う人もいますが、そんなのは好き勝手のわがままで、それでは人間として真面目に生きていく生活態度を覚える事ができません。人間は行動の基本の部分で忍耐と努力と集中力を学ばなければいけまん。自然な良いテクニックで毎日勉強して土台を作ってこそ初めて素晴らしい本当の自由を味わうことが出来るのです。

 要するに、何にでもさじ加減が大切なのです。子供の自由を駄目にしない一歩手前でこちらの要求を控える事と、いつも相手をよく観察していていやな事でも我慢して努力する事と、自由とを上手にバランスよく与えなければいけません。
 辛い厳しさに耐えた後、自然の中で自由にのびのびと振る舞える事が、私達にとって一番幸せな時なのではないでしょうか。

 子どもたちがピアノの勉強を通して本当の自由の分かる人間に育つ事を願っています。 【K】(1994.9.22.掲載)

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