何かする前に考えてみて下さい。
ピアノを弾く時だけではありません。人間は何かをする時、例えば学校の勉強だってスポーツだって頑張れば頑張るほど、自分で自分の体に力を入れてしまいます。
その結果は悪戦苦闘なので疲れ果てるだけです。それでもまだ考え違いに気が付かず、気の強い人は私は頑張ったのだ! 努力したのだ! と自己満足をしていて自分が間違ったことをしている事に気が付きません。一方、気の弱い人は結果が良くないのは自分の勉強が足りないんだ、もっともっと練習しなくてはいけないと自分を責めます。
自分で一方的に思い詰めるだけでなく落ち着いて考えてみましょう。
この地球上で体を使って何かやる時は、自分の体をこの果てしなく広がる大きな宇宙の地球の上で、自然にもっとも効率よく動かすにはどうしたら良いか? と考えるべきですが・・・それがどうしても自分の体よりやる事の方へばかり気持ちがいってしまい、一番大切な自分の体のことを忘れるのです。
私達は宇宙の中の地球という星に住んでいるのです。学問的に面倒な事はよく分かりませんが、この星には重力があり引力があってそれに支配されています。その中で生まれた時の自然体で無駄な堅くなってしまう力を使わずに、体の一点(重心)でバランスをとり体中リラックスして楽に立つ事がまず大切です。
そして私達が立って歩くことは(勿論歩き方にも人それぞれ多少の癖はありますが)誰でも一応上手に堅くならずに歩いています。個人一人で頑張る力でなく自然の法則に逆らわずそれをうまく使って楽に動いているのです。
生理的に100%力を抜く? それでは何も出来ないじゃないですか、と考える人もいます。そうではないのです。人間は生きているから、生理的にカチカチに力を入れると動けなくなるけれど、この無駄な力を入れないようにすれば体が自然体になって生きていますから、気を入れて集中して生きているパワーで動く事が出来るのです。
学校の勉強でも本を読む時、字を書く時、体をどういう状態にするかまず考えるべきです。スポーツの世界では、体の使い方で記録がどんどん変わるので分かり易く、一番体の使い方は研究されていると思います。
今年の冬のオリンピックで金メダルを取ったスピードスケートの清水宏保選手が、とても良い事を言っています。その一部ですが『レースではとにかく筋肉をしなやかに使うことだけを考えました。レース中、手の指先がピンと伸びることはありません。指の力を抜くことが、八割の気持ちで十割以上の力を出すコツかも知れません・・・リラックスする事が大切です・・・』
ピアノを弾いている皆さん、弾きながら自分の十本の指をよく観察して下さい。例えば、4や5の指を使っている時、使っていない2とか1とかがピンと伸びていたり、第三関節が逆に押し込まれたりしていませんか? それが無駄な力なのです。
指だけでなく、体の部分も同じです。肩が上がっていたり、あごが出ていたり首を振っていたり背中が堅かったり・・・。スケートをやっている人が指の先まで気を付けているのです。ピアノを弾く人も気を付けましょう。
無駄のないのが自然で、自然は見ていて美しいのです。それに比べ不自然は本当に醜いものです。楽にたのしく音楽の音を作り、ショパンやブラームス、ベートーヴェンが弾けるように無駄な力を抜くよう心がけ、よく研究して良い結果の出る勉強をしましょう。【K】(1998.5.1.掲載)