この地球上では、物と物がぶつかると音が簡単にでます。そして、堅い物がぶつかった時ほど大きな、いやな音がします。この音はとても音楽の音とは言えませんし、人々が好きな音ではありません。即ち、人に良い影響を与えない、いやな騒音です。なぜ騒音かと言うと、堅い物どうしは物がぶつかる時のショック(衝撃)を逃がすものがないので、衝撃音だけで、そのあと倍音が共鳴して鳴り響くことがないからです。
すべての音楽に使う楽器は、この物と物がぶつかると音が出るという原理を使って作られています。ただ、そのままぶつかった音は前に書いたように不愉快な音ですから、そのいやな音にならないよう工夫されています。物と物がぶつかる時の衝撃を上手に逃がすよう、工夫されています。そして、その作られた楽音が倍音によって鳴り響き、人々に心地よさを与えます。
打楽器を考えてみましょう。例えば、たいこの場合日本でも西洋でもばちでたたく面は皮を張って弾力があるようにしています。木琴も楽器に工夫がある上に、手にたたく棒を持った人がギュッとつかまないで軽く持ち、ショックを上手に身体でおさめるようにしています。弦楽器も張った糸の弾力と弓の弾力で、とてもうまく処理しているでしょう。その他もみな同じです。
さて、ピアノはどうやってそのショックを処理したら良いのでしょう。ピアノのキーは上から押すと1cm2mmほど下へ軽くさがります。まず、鍵盤の動くことによって衝撃から逃れる仕組みになっています(ピアノの中のアクションもとても精密にその仕事が出来るように作られています)。
そして、ピアノを弾く人間の方は、身体中の弾力を使って処理をするのですが、直接ピアノの鍵盤に触れる手が大切な役目を担っています。神様は人の手をとても便利に動くよう、作って下さいました。手は指と手の平に分かれています。手首の関節を入れて4つの関節があります。これを使って、やわらかい良い指を動かし、動いてくれる鍵盤と助け合ってぶつかるショックを上手に逃がして、音楽の音、良く鳴り響く音を作れるのです。
ピアノは鍵盤が88もあり、その一つ一つを弾く時に必ず指をしなやかに丁寧に動かして、叩いたり、つついたり、ぶつかったりしないように鳴る手続きをしなければいけません(和音も同時にいくつか弾いても同じようにします)。一つ一つ集中して、いつも丁寧に指を使います。その習慣を手に身体にしっかり積まなければいけないのです。能力は繰り返さないと育ちません。
逆から言うと、いつも自分の音をよく聴いて良い音、音楽の音を求めて弾けば、自然に身体や手は良い使い方になります。0才の赤ちゃんをピアノの前に座らせるとよくわかります。必ず私が言っている通りの鳴らし方をします。
音楽にとって一番の基本は音です。音をどうやって作るかを子供の時によく身につけないと、全然音に対して関心がなくひどい騒音でピアノを弾く人になってしまいます。そして、だんだんピアノを弾くのが嫌いになってしまうのです。衝撃音を避けて、やわらかい指で丁寧に鳴らした時、初めて弾いている音に心を込める事ができます。ピアノという楽器は、とても簡単に音が出るばっかりに、ちょっと間違うと音楽の音を作れない可哀想なピアニストを作ってしまいます。
習い初めたら、毎レッスン先生から音の指導(いつも同じ事だから心配しないで!)を受けて、十年経って、音楽の音を心や魂を込められた音楽を作れる人になって下さい。それさえ身につければ、どんな曲でも自由自在にエンジョイして弾く事ができ、聴く人々を幸せにします。【K】(1992.3.19.掲載)