明治生まれの人はいつも生活の中で、なかなか良い事を言いました。
これも昔、母が繰り返し私達に言った言葉です。『勉強はいつでも自分より上の人を見なさい。決して自分より下の人を見てはいけません』そして、『生活は自分より下の人を見るのです。上を見てはいけません』
本当に素晴らしい言葉です。でも現実にはなかなかこうは出来ず、勉強は自分より出来ない人を見て『私は出来るんだ!』と思いあがって怠けてしまい、生活はいつも自分より良い生活をしている人を見て羨ましく思い、現状を感謝する事を忘れて文句ばかり言っているような気がします。
要するに、人間はいつも高い目標に向かって努力し、物を追い求めないで心を大切にしなさいという事ですね。
子どもの教育でも同じ事が言えます。3才のYちゃんと1才半のH君は『アンパンマン』に一番よく反応します。それで親もつい子どもを喜ばせたくてそればかり見せてしまいます。 私はそのビデオを知らなかったので見せてもらいました。それは非常に単純明快な勧善懲悪のお話です。
子どもが生まれてほんの数年では、まだ左脳が発達していないので知識がありません。それで見たり聞いたりしたものに反応する事が出来るのは単純な事だけです。その証拠に右脳の感性で感じとったものを、言葉で表現することなどまったく出来ません。
感性は年齢が幼くても、大人でも同じようにすべての事を判断し分かることが出来ます。大人になれば知識が豊富になってその感じとった事に対して言葉で表現し、自分の意見を喋る事が出来るでしょう。でも子どもは感じとったのは同じでもそれを言葉にして喋る事はできません。複雑なものになるほど、それを言い表す事は不可能です。
それで大人はつい幼い子どもは幼稚なものしか分からないと勝手に勘違いしてしまうのです。そして幼稚なものだけを与え続けてしまいます。その辺に氾濫している子ども用のおもちゃ・絵本・すべてその『幼稚でなければいけない』と思い違いをしたものが大多数だと思います。
これでは『勉強で下ばかり見ている』ことになってしまいます。子どもの場合は自分が心掛けが悪くて下を見るのではなく、周りの大人がそうさせてしまうのです。
子ども達が易しいものに反応して喜び、たどたどしい話をするのも可愛いものですが、目の前のことだけ喜んでいないでどうか周りのご両親やいろいろな指導をする先生方、毎日忘れないで難しいものも繰り返し聴かせたり、見せたりして下さい。そしてそれに反応する事を求めない事です。今は子ども達がそれに対して意見を述べる事は無理なのですから・・・・。
幼い時から人間には大自然の美しいもの、芸術の香り高い物が必要です。 それが10年20年と毎日々々与えられたか、低俗なものばかり与えられたかで、その人間の一生に使える感性の豊かさが決まってしまうのです。 【K】(1996.3.19.掲載)