才能教育研究会ピアノ科




コラム : 伝統
投稿者: river 投稿日時: 2006-12-28 11:43:59 (851 ヒット)


 たびたび書きましたが、私の母親は明治生まれの大変厳しい人でした。今のように学校の勉強の点数や順位等には関心がなかったようですが、毎日の生活の中での人間の基本的な躾にはとてもとても厳しく、毎日々々繰返し注意され言われた通りに実行する事を求められました。

 その中で名前を呼ばれた時、必ずすぐに「ハイッ」と返事をしなければいけませんでした。「何?」なんて返事をうっかりすると「親に向かって何事です。そこに座りなさい」と言われ、まず一時間はお説教でした。私は、子供心に「ようし、呼ばれたらすぐに“ハイッ”て言いましょう」と家にいる間は四六時中気を付けていました。

 20才を過ぎて大人になり社会に出てみるとどこへ行っても「貴女は“ハイッ”って言う返事がとてもいい!気持ちがいいですね」と誉められるのです。初めのうち私は不思議でなりませんでした。
私にとって毎日の生活の中で使っている当たり前の事を無意識にしているのですから「なぜ誉められるの???」と、どうしても分かりませんでした。幼い子供の時からずっと生活の中で躾られた事はいやおうなしにしっかり身についてしまうのですね。

 今年のお正月、息子一家が泊りがけで私の家にやって来ました。女の子の赤ん坊がもう少しで満一才です。Yちゃんはまだ何も喋れません。ただ面白い事に返事をはっきりするのです。名前を呼ぶと、「ハイッ」と大人みたいな感じで返事します。(機嫌が悪いと駄目ですが・・)
「おりんご食べたい人いますか」と言うと食べたい時は「ハイッ」と言います。面白い赤ん坊です。普通、“マンマ”とか“ママ”から覚えるとばかり思っていましたので、これは変だなぁと考えました。

私は私の母に「ハイッ」と言うよう躾られ、私はまた息子に勉強は一生懸命やって出来なければそれでいい、但し・・・日常の躾は母ほどではないけれど厳しく教えたつもりです。それで、Yちゃんの父親は何かと言うと「ハイッ」と言うはずです。それを毎日聞いてまず「ハイッ」と言うのを覚えたのだなと思い当たりました。


 仕事の上でも家庭の中でも一つの大切な事は代々引き継がれていくのですね。私の知っているかぎりでは母から私・息子・孫と四代「ハイッ」は続いているのです。これはささやかながら“我家の伝統だな”と思いました。

今の日本の社会は戦後核家族化が進み、お年寄りから良い伝統を引き継ぐ機会を失ってしまいました。物質・品物のあふれる世の中を経験した私達は、この辺で物ではない古くから伝わっている大切な良いものを、次の代に伝える努力をしなければいけないのではないでしょうか。「文化と伝統」考えなければいけない問題です。

 20年近く昔、アメリカのメンフィスで泊めて頂いたお家で7才の女の子、5才の男の子が父親に呼ばれるとすぐに「イエス・サー」母親に呼ばれると「イエス・マム」と答えるのをみて、世界中どこでも同じと感心した事があります。
去年のクリスマスにこの家のお母さんからクリスマスカードの便りに、上の女の子は大学でマスターを卒業し、下の男の子はハーバード大学に在学中と知らせてきました。きっとマナーのよい素敵な女の子と青年になっている事でしょう。

 人間一人では生きられませんからいつも大勢の人の中で、良いコミュニケーションをしていくには挨拶が大切です。「ハイッ」もその一つです。学校の点数よりも一生長い年月、生活をしていく上で何よりも大切な事だと思います。そして、どんなに小さい事でも正しい良い事を代々引き継いでいけるような教育こそ、私達にとって大切なものではないでしょうか。

 ピアノの指導も、一代かぎりでなくあそこの教育には伝統があると将来言われるよう、良いものを積み重ねていきたいものです。 【K】(1994.1.22.掲載)

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