6才のお正月から何がどうなっていたのか、3人兄弟の真ん中の私は姉と一緒にピアノを習い始めました。 母がとてもクラシック音楽が好きで、レコード(昔はSP)を沢山集めていましたので習い始める前にも、きっと良い音楽を聴いていたのだと思います。そんな事で私と音楽との付き合いが始まりました。
やっぱり私はクラシック音楽に縁があったのでしょうか、始めた時とても熱心だったようです。それと、2番目で何でも姉に負けたくない勝ち気な妹で、どうしても姉より先に進みたく、自分からとても一生懸命練習したのを覚えています。
そしてとうとう目的を達成し、のん気でゆっくりやっていた姉を追い越してしまいました。そして姉は妹に追い越されたので「やめる!」と言って、そこでピアノのお稽古をあきらめてしまいました。何事にも厳しかった母が、素直に姉がやめる事に賛成したのは今でも不思議です。
さあ、それからは競争相手がいなくなったので練習に対しては、『バタッ』と意欲をなくし練習嫌いになりました。でもその時からが、私と音楽との付き合いが本当に始まったのだと思います。
練習は嫌いだけど音楽は好き! いろんな弾きたい曲がいっぱいありました。先生から次の曲は「これを弾いてきなさい」と言われると嬉しくてワクワクしたのを覚えています。練習はいやいやでしたが、毎日必ずやらされたので曲が次第に出来上がってきます。そしてそれを演奏出来るようになると、弾きながらとても幸せな気分になるのです。
中学の一年生の頃です。ベートーヴェンのソナタ・ワルトシュタインの2楽章、イントロダクションと後に続く、Allegretto(ソーソーミレソドミ)を練習していた時の事をよく想い出します。冬の寒い夜でしたが、あの美しいメロディーを弾きながら聴いていると、もう今の現世とは違う別世界に入って何ともいえない幸せな感じがするのです。その頃から音楽って何だろうと考え始めました。
音楽は嬉しい時、悲しい時それぞれに心にしみて人間をコントロールしてくれます。昨年の神戸の震災の時に神戸に住んでいらした一人のピアノの先生が水を汲むため長い列に並んで、長時間学校の校庭に立っていた時、そこにモーツァルトのピアノ音楽が聴こえてきたのだそうです。
それを聴くととても感動し音楽が心に深く訴え、涙が流れて止まらなかったと話して下さいました。「音楽って素晴らしい! と思いました。そして建物や物のように何があっても壊れないのですね」と言われました。
私は年を取ってから気が付きましたが地球上で生きている生物の中で、神様が人間にだけ与えて下さったものは芸術!人間だけが音楽によって疲れを癒し、明日生きる元気を養う事が出来るようになっているのです。
アメリカでいつか会ったお医者さんが、「貴女は音楽を仕事に持っている。音楽は人を幸せにする事が出来るんだから貴女は幸せな人! 私達医者の仕事は大変です。毎日不幸な人とばかり会わなければならない」と言われました。
4月28日に10台のピアノコンサートの8回目を楽しく無事に終わったところですが、毎回々々聴いて下さった方々から「感動しました」「涙が出ました」と言っていただき、プロフェッショナルでない子ども達が一生懸命勉強して一生懸命演奏するとこんなにも多くの方々に喜んでいただけるし、演奏した子ども達も「2回弾くのとってもいいんだよね。一回目はいろいろ心配なあまり緊張して何を弾いたか分からないんだけど、2回目は楽しく弾けるの」と言っています。私達は会場が狭いため、2回公演にしましょうと決めた時、子ども達が疲れるのではと心配したのに・・・彼等はステージで弾く緊張感がある良い演奏の音楽の喜びに浸っているのです。
音楽ってとても人を幸せにするものですね! 【K】(1996.5.23.掲載)