スズキメソードの良い点は一番最初に習う時、楽譜から入らないで音楽をたくさん聴いて子供達がそれを再現する方法です。昔からの方法は楽譜から始まり、いつも目を使わなければいけなかったので、なかなかうまく初歩の教育が出来ませんでした。
どこの国の子供達も外国人が習ったらとても難しい母国語を、上手に自由自在に使いこなせる素晴しい頭脳を持っています。音楽の曲を繰り返し聴かせればすぐ覚えてしまって弾けるのは当然です。沢山聴いている子供は必ずよく覚えます。この勉強の始まりの部分が誰にでも分かりやすかったので、スズキメソードは世界中に広まりました。
さて、現実には生徒の勉強の仕方には4つのタイプがあります。
1 毎日よくCD又はテープを聴いている。ピアノの練習も毎日良くやっている。
2 CD・テープは沢山聴いているけれど、練習はほんの少ししかやっていない。
3 練習は良くやっているけれど、CD・テープなどほんの少ししか聴いていない。
4 練習もしない。CD・テープ等も聴かない。但しレッスンだけは休まない。
私はいつも思うのです。勿論、1番が理想的ですが、人生理想と現実はなかなか一致しませんから、1が出来ない事情があっても心配する事はありません。極端に言うと、4でもかまわないでしょう。
4種類の中で一番もったいないと思うのは3のタイプです。なぜかと言うと、努力して練習したわりに『CDを聴いていないので』覚えるのに苦労したり、音楽のフィーリングを感じとる練習をするチャンスがないからです。それでも教育は長い年月が必要ですから長期計画もいいでしょう。良い教育をして下さる先生につき、自分の家庭に合った方法で気長にやるのは悪い事ではありません。絶対にいけないのは、Give upする事です。止めてしまうと何もなくなります。
さて、“勉強して下さい!”というタイトルの話はここから始まります。
子供達はよくCD・テープ等を聴かせていれば始めに書いた通り必ず曲は覚えます。覚えて音符に書いてある通りに弾く事は、彼らにとって何でもない事です。スズキメソードで始めた人でないとこの覚えるのがやさしいという事はなかなか理解出来ないでしょう。
但し、好事魔多しと言うだけあって、これが悪い面に作用すると彼等は覚えただけで曲が弾けたと思い、そのあとは練習しなくなります。だって一度覚えてしまえばレッスンに行く時、沢山練習して行かなくても忘れていませんから、弾けないで困る事はありません。それでみんな勉強しないのです。
それでも本当の勉強は曲を覚えてスラスラ弾けるようになった時から始まります。先生は生徒が楽に弾けるようになった曲で、音楽に必要なあらゆる部分の音楽の音・拍子・テンポ・メロディーの歌い方・伴奏はどうあるべきかのレッスンが始められるのです。
建築で例えれば、曲を覚えた時はその建物の設計図が書けた時と同じです。建築はそれを元に立派な家を建てるのです。基礎工事をしっかりやり建物の骨組みの柱を手を抜かないで頑丈に建て、屋根を付け壁を張り美しいインテリアを考え、住む人が気持ち良く住めるようにするのが良い建築物だと思います。
音楽の曲を上手に演奏する仕事も建築と同じようにやらなければいけないのです。それですから覚えた時から仕事が始まります。覚える勉強と曲を上手にする勉強はまったく種類の違う勉強です。そして建築と同じようにとても根気と努力と時間が必要です。
先生もお母さん方もこれをよく理解して下さって、早く先に進まない等と文句を言わず立派な曲に仕上がるまで協力して下さい。これが本当の大切な勉強です。勿論、もう一つの先の曲を覚える方の勉強も、好きな人はどんどんやって下さい! 【K】(1993.6.18.掲載)