ある日テレビのスイッチを入れてみると、海辺の小さな島を一人の年をとられた日本画家がその島の反対側の岩場の上で写生をしておられました。
そこは確か日本海側の(島根県?)海岸であまり人の来ない静かな自然の残っている所のようでした。その写生は1〜2回などではなく、早朝、昼、夕方と何日も何回も続けられます。クレパスの茶色の一色で描かれたり、次には黒で描かれた上に色彩したり、色々の方法でなされていました。
泊まって居られる宿でその下書きの絵を見せて下さいました。小さいものから大きいものまで驚くほどの何十枚もの数でした。「こうやって仕事をする時は家庭から離れて一人で旅をして気を集中してやるのです」と言われました。
音楽と絵は同じ芸術の世界のものですが、一枚の絵を仕上げていくのにあのように朝から晩まで何日も何ヶ月もお天気の良い日も雨の日も現場へ通われて自然を観察し、あのように細かい努力の積み重ねをしているのを見て、ピアノ音楽でも一つの曲を仕上げるのに、同じような基本的な問題を一つ一つ部分的にゆっくりした練習を積み重ねる努力をしなければならない事を思い、何でも良い仕事をするには細かいところまで充分に注意し練習を積まなければいけないのだと思いました。