前回も書きましたようにピアノという楽器は、多声部を一人で右手と左手を使って弾かなければなりません。それで正しい読譜が大変重要です。人間は手が二つ、指が五本ずつですから、二声から三声四声となると、目で楽譜を見て音符を正しく理解すると同時に、それを正しく音にするには高度のテクニックが必要です。
ここで世の中の人は一つ大変間違った考え方をしている事に気が付いてほしいのです。そしてこれは、読譜だけではありません。すべての事に共通する問題です。
それは「頭で解る」事と「出来る」という事が混線して考えられ「どちらも同じなのだ。頭脳が解った事は当然出来るのだ」と勘違いをしています。ところが頭で物事が解る即ち知識があるという事と、それが実際に体を使って出来るという事は全く違った時限の問題です。
どんなに沢山の知識が頭の中にあっても、それが全部出来る人など、どこをさがしてもいません。その反対に知識がなくても出来る事は沢山あります。子供の時代はほとんど何をやるにも「出来る」方でやっています。
母国語を三才になれば自由に話し、文法的に現在も過去も間違えずに使えるでしょう。しかし子供達は文法の知識など全然持っていません。日本人の大人は英語を勉強して知識は沢山あるのですが、それを全部使う事が出来るかは疑問です。すべての事にこの違いがあてはまります。
読譜も同じです。音楽学校を卒業しているピアノの先生方(世界中の)でも、勉強されたのですから知識は豊富ですが、実際に正しくそれを音にする即ちピアノを弾くという事になるとほとんどの人が正しく弾く事が出来ません。