昔、私が生徒から先生に変身した時、私の頭の中はとても単純な考えに支配されていました。それは「生徒は必ず毎日練習する」ものだと信じて疑わなかった事です。私が生徒の時には365日練習を休ませてもらった事はなかったせいです。
それで一週間たってレッスンに来た生徒が上手になっていない時、私は自分の教え方が悪いのだと反省し尚一層熱心に教えました。しかしなかなかうまくいきません。鈴木先生は“どの子も育つ”と言われています。何とかしなければと悩みました。
ところがある時、鈴木先生が私に何の気なしに言われた事がこの問題の解決のヒントになりました。それは「何のかんのと言っても上手にならない生徒は練習してないだけです」でした。
これはもう素晴らしい名言です。良い練習を毎日たくさん積めば誰でも上手になります。当然分かり切った事ですが、一軒々々のお家にはそこの家庭の都合があり、それぞれの人の生活がありますから一家の中で、子供の練習をどうしても毎日上手にやれない事だって生じるのです。
そして神様がそれを私に実際の生活を通して教えて下さったような気がします。私も自分の子供を持った時ピアノの上手な子にしたいと夢をみました。ところが私の仕事がとても忙しく現実と夢とはどうしても一致しませんでした。この世の中には一人の人間の力ではどんなに頑張ってもどうにも出来ない事があります。私はいろいろな経験をした結果、
“何も親子が心がけが悪い訳ではなく、毎日練習出来ない家だってある”
“何も急いで上手にならなくてもいい”
“大事な事はほんの少しでもよいから良い練習をする事、そして諦めないで気を長くして教育する事”
という結論にたどりつきました。
進み方はどんなにゆっくりでもいいのです。人間は自分でやる気を持った時、素晴らしい能力を発揮します。それまで待ってあげる事が大切です。そしてそのゆっくりの間に先生に正しい基本をレッスンのたびに教えていただき、良い練習を少しでもいいからする習慣を作る事です。